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福岡高等裁判所 昭和49年(ラ)1号 決定

抗告人 鶴健市

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨およびその理由は、別紙記載のとおりである。本件記録によれば、原裁判所は、鑑定人石橋与一の鑑定結果に基づき、本件競売不動産の最低競売価額を合計金四、二二二万九、三〇〇円と定めて一括競売に付したところ、第一回の競売期日には競買申出をする者がなかつたので、最低競売価額を約一割低減して金三、八〇〇万七、〇〇〇円と定めて新競売を実施したが、右第二回の競売期日にも競買申出をするものがなく、その後も競買申出をする者がなかつたため、第三回、第四回、第五回と順次最低競売価額を金三、四二〇万七、〇〇〇円、金三、〇七八万七、〇〇〇円、金二、七七〇万九、〇〇〇円と約一割ずつ低減して競売を実施した結果、第五回の競売期日にいたり、有限会社福産が最低競売価額金二、七七〇万九、〇〇〇円で競買の申出をしたので、本件競落許可決定をしたこと、右競落代金は本件競売申立人の債権に先立つ債権に関する不動産上の負担を弁済するに充分であることが認められる。

ところで、新競売を行うべき場合に、最低競売価額を低減すべき程度は、民訴法六四九条一項の規定を害しない限り、当該手続の進捗と各関係人の利害を衡量のうえ、競売裁判所の自由な裁量により、その適当と認める限度にまで低減することができ、また競買の申出がないため数回にわたり新競売を実施した結果、最後の期日の最低競売価額が鑑定価額に比較し、はるかに低廉になつたとしても、各新競売期日の最低競売価額が、その直近の期日の最低競売価額に比し低減の程度が相当と認められる以上、それだけで競落が違法となるものではないと解するのが相当である。

これを本件について見るに、原裁判所は、競買の申出がなかつたため、最初の最低競売価額を約一割ずつ低減して新競売を実施したのであつて、右低減の程度は、競売裁判所の自由裁量の範囲内に属するものというべきであり、また最後の期日の最低競売価額金二、七七〇万九、〇〇〇円は鑑定価額金四、二二二万九、三〇〇円を相当下まわるが、これは競買の申出がなかつたため四回も新競売を実施せざるを得なかつたためであり、しかも各期日における低減の程度も相当と認められるので、本件競売手続には、所論のような違法はないものというべきである。

その他一件記録を精査するも、原決定にはこれを取り消すべき何等のかしも認め得ない。

よつて本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 原田一隆 塩田駿一 松島茂敏)

(別紙)

抗告の趣旨

原決定を取消す。

本件競落は之を許さない。

との裁判を求める。

抗告の理由

一 抗告人は別紙目録記載の不動産について、今回福岡地方裁判所大牟田支部が昭和四八年一二月一七日最低競売価格金二、七七〇万九、〇〇〇円に最低競売価格金を低減して新競売期日を定めたのは民事訴訟法第六四九条一項の規定を害して定めたものである。

二 其の理由は、本件競売物件たる土地、建物は大牟田市白金町に於ては人通りも多く且つ道路の角地に位置して店舗としては最も有効な路線上の方位である為、本件物件を民間に於て、同時に売買するとすれば、その価格は一億円相当の価格をもつて取引が行われるものである。

このような高額にて取引の出来る物件であるから同庁は民事訴訟法第六七〇条第一項の規定を充分配慮の上、最低競売価格を定めるべきである。

三 以上の理由により抗告人は、このまま競落許可が確定されると著しく損害を来たすことになりますので、之を防止する為、抗告の趣旨記載の裁判を賜わりたく申立致します。

別紙 目録〈省略〉

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